小野先生の一期一会地球旅㊺「海外看護事情視察団に添乗して その4」

一期一会 地球旅 45

海外看護事情視察団に添乗して (その4) 忘れえぬ人々

平成11年度(1999年)のNurse Tourは、10月末から11月上旬にかけて15日間、シアトル、ナッシュビル、ボストン、シカゴの各地で集中的に視察され、中身の濃い報告書を残しておられる。1989年に始まった海外看護事情視事業は、10回目(95年は阪神淡路大震災のため、中止されたと思う)という節目の年でもあり、毎回添乗してきた思い出などを綴って欲しいという嬉しいお申し出をいただいた。そこで、巻末に忘れ得ぬ人々として視察訪問を受け入れていただくにあたり、格別お世話になった方や思い出深い人々のことを書かせていただいた。それを引用しながら加筆して書かせていただく。

ヴァージニア・M・オールソン博士(Virginia M Ohlson, MS,Ph.D)

これまで幾度も書いてきたが、海外看護事情視察団(Nurse Tour)が初めて派遣された1989年、その時の主たる視察希望項目は、医療制度や医療政策の変化に伴う看護の同行、看護管理面での新しい動き、看護教育、看護業務の実態、看護婦協会の活動などを掲げられ、このようなテーマを少しでも多く取り入れた視察訪問を行えるようにするためにはこの視察事業の目的と視察希望項目について理解していただき、協力してくださるコーディネーターを求めていた。そして、折よくオールソン先生の存在を知り、全社連の当時の看護課長Y氏と折しも来日中の先生にお会いして趣旨を説明し、協力をお願いしたところ快諾してくださった。すでにUICの看護学部長は引退しておられたが、当時も名誉学部長として研究室をお持ちであった。初めてUICの看護学部を訪問した時は、オールソン先生は勿論当時の学部長始め特別講義をしてくださる教授などが温かく迎えてくださり、何の不安もなくプログラムが始まっていった。それから、毎年UICの協力を仰ぐことになり、結果的にはこの1999年以降も2002年まで延べ12回のNurse Tourでは毎回訪問して特別講義をしていただいた。ここに至る最大の功労者として、そして個人的にも博士のことは、今も一番心に強く残っている。

11994年9月には、全社連が健康保険病院経営受託35周年祝賀事業の一つとして博士を招き、特別講演会が行われた。博士は、GHQ(連合軍総司令部)の看護担当官として戦後間もなく来日され、広島の原爆病院で被災者の看護にあたられ、その後、日本の看護の仕組みを改めていく上で大きく貢献された方である。その功により、勳三等を叙勲されておられる。初めて来日された折り、羽田空港から都心に至るまでの風景やその後の日本での生活などについてのお話などを印象深くお聴きした。2この講演会では通訳も担当したのでなおのこと思い出深い。この講演会の後、全社連では、博士を北海道旅行に招待され、Y氏と筆者がお供した。札幌から函館まで初秋の道南3泊4日、デラックスなリムジンで旅したことが懐かしい。博士は、視察団がUICを訪れる度にご挨拶に来てくださったし、視察が終わった後、シカゴ市内の日本食レストランで先生はじめUICの先生方を囲んで夕食会をするのが習わしとなっていた。視察団にとっては思い出深いひと時であった。先生は、その後、視察団も訪れたことのあるホームで過ごされていたと聞いていたがその間もクリスマスカードの交換は筆者にとってはとてもうれしいことであった。3昨年、ホームページを開いてみたところ、2010年4月10日に95歳で旅立たれたことを知った。筆者が長年Nurse Tourを担当させていただけた陰には、オールソン先生がご厚誼くださったことがもう一つの大きな支えであったと今も感謝している。

小野田千恵子先生
UICを訪ねるたびに毎回シカゴでの視察プログラムの手配、施設への案内、複数通訳などの手配など実質的にお手伝いくださったのが小野田千恵子先生であった。UICではかつては教鞭もとられていたそうであるが、すでに引退されてボランティアとして看護学部で様々な調整役や日本人留学生などの指導や相談にのったり、とても面倒見のいい方であり、気さくな方であった。お住いは、シカゴの中心街、魅惑の1マイルと呼ばれるミシガン通りに面したジョン・ハンコック・センタービルの66階であった。4この建物はシカゴで最も有名なビルの一つであり、60階から上がマンションになっており、最上階、94階の展望台から、特に夜景はまさに息をのむ美しさ、そして豪華であった。先生は、いつもNurse Tourのメンバーを自宅に招いてくださり、歓迎のケーキとおいしい日本茶でもてなしてくださった。横メシ(横文字をしゃべりながら食べる食事)の緊張から解放され、この時ばかりは全員がリラックスして素晴らしい夜景を楽しみながら、何とも心休まる時間であった。報告書の中には、表紙にシカゴの夜景を載せられた団もある。

ベヴァリー・J・マクエルマリー博士(Beverly J McElmurry, Ed.D, FAAN)

5UICでは毎回各専門分野の教授始め様々な専門分野のエキスパートからテーマごとに講義していただいた。そこで、講座の設定や講義でお世話になったのが看護学部の副学部長でもあるマクエルマリー博士であった。 飾り気のないボーイッシュな方で、とても明るく、暖かな人柄で毎回わかりやすく講座を設定してくださり、専門の公衆衛生やWHOとの共同研究なども含めて幅広く指導していただいた。 先生からは「Primary Health Care in Urban Communities」 という共著のご本を頂戴している。 「すべての人にとって健康を基本的人権と認め、これを達成するためには住民の主体的参加や自己決定を保障する考え方が基本にあるべきである。」というプライマリーヘルスケアの理念はマクエルマリー先生にとっては一番興味深い関心であるのだろう。

もう一つ、UICでは、思い出をいただいている。いつのときであったか鮮明には覚えていないが、マグカップをいただいた。その時、訪れた団員各氏には、UICからもらった記念の品でさほど大きな印象は無いかもしれないが、筆者には、UICに毎回来て一番勉強したのは、Mr.Onoでしょう、と言葉を添えてこれをいただいた。 今も、University of Illinois,

School of Nursingと書かれたマグカップを愛用している。

ジョイス・C・クリフォード博士(Joyce C. Clifford, Ph.D)

Nurse Tourでもう一人書かせていただきたい方がある。UICに次いで多く訪れたのがボストンのベス・イスラエル(Beth Israel Hospital)病院である。ハーバード大学の教育病院の一つであり、米国でも優秀な医療施設としてランクアップされており高く評価されている。この病院の看護担当副院長がジョイス・クリフォード博士であった。この病院をNurse Tourで初めて訪れたのは、1989年、クリフォード博士が看護担当副院長として会ってくださった。しかし、個人的には、それ以前にもDoctor Tourで2度ほど訪れており、その時もお会いしていたような気がする。クリフォード先生は、プライマリーナーシングの仕組みを開発されるうえでの第一人者であり、1983年には、東京で行われたICN(国際看護師協会)の国際会議で来日されてプライマリーナーシングを紹介され、次第に日本でも関心が高まっていたと聞いている。そのようなこともあって、ベス・イスラエル病院を訪ねたいという希望も多かったのだろうと思う。最初のNurse Tourで先生にお会いした後、翌年(1990年)も訪れたが、この時は副看護局長のM.バックマン氏を中心に案内していただいた。クリフォード先生にお会いできたかどうかは定かではないが、視察申し入れの手紙はいつも先生宛てに出していたので今もお名前はよく覚えている。

今回、この稿を書くにあたり、先生のことをホームページで開いてみたところ、New York Timesに2011年10月31日付けで大きく報道されていた。要約は以下の通りである。

プライマリーナーシングの推進者 ジョイス・C・クリフォード 76歳で逝去

「J.C.クリフォード 患者ケアに於いて、医師と看護師の間の対等な関係を構築する上で貢献した。その考え方は、アメリカでも最優良といわれる病院などで採用され、医療過誤を減じ、死亡率を減じることにつながっていった。2011年10月21日 ボストンにて逝去」とある。6

Joyce Clifford, Who Pushed for ‘Primary Nursing’ Approach, Dies at 76

Joyce C. Clifford, a nurse who advocated a partnership of equals between doctors and nurses in the treatment of patients, and whose ideas were adopted in some of the nation’s best hospitals because they reduced medical errors and improved survival rates, died on Oct. 21 in Boston. She was 76.

(New York Times  Oct.31, 2011)

他にもたくさんの方にお会いしてお世話になってきたが、とりわけヴァージニア・M・オールソン博士、ジョイス・C・クリフォード博士といった看護の世界で大きな足跡を残された先生方に感謝すると共に、幾度もお会いできたことを光栄に思っている。7

(資料 上から順に)

Virginia M. Ohlson、RN, Ph.D. FAANのこと。(UIC College of Nursing 資料より)

Ohlson先生 遺影

UIC看護学部長ほか教授陣など (1999年度視察団)

UIC小野田千恵子先生を囲んで (同上)

Primary Health Care in Urban Communities   (Beverly J McElmurry, Ph.D)

Joyce C Clifford    New York Times より

UIC 看護学部 マグカップ

 

(2015/2/28)

小 野  鎭